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another storys
第8章 筒井筒【陽炎】
「但馬屋の、末のお嬢さんが今年十七なんだ。それで、俺の事を気に入ってくれてるみたいで…今すぐにではないにしても、行く行くは婿にならないかって、旦那様に言われてんだ」

「凄いじゃない、市八!」

母は素直に喜んだ。

「本店はもう、一人息子の若旦那が継ぐと決まってるし、上の姉様方はもう縁付いてる。旦那様は末のお香お嬢さんだけは手元に置きたいみたいなんだ。それで、先ではどっかに支店を出して婿を迎えるつもりでいるらしくて」

「それって支店を任せて貰えるってことでしょう?凄いことよ?」

「何か、気懸りがあるみたいだね。私たちだけしか居ないんだ、何でも言ってご覧」

父が穏やかに笑う。

「お香お嬢さんの婿になるってのが、考えられないんだ。奉公に入った時からずっと見てんだもの。子供の頃はそりゃあ我儘で、けどお嬢さんにゃ下手な事言えねぇし奉公人皆手を焼いたお転婆でさ…」
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