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第8章 筒井筒【陽炎】
市八は、歩いて一軒の家の前に来た。
ひとりの娘が、箒で家の前を掃いている。

「よぅ」

ぶっきらぼうに声をかけた市八に、娘は箒を持った手を止める。

「市っちゃん。どしたの?この辺にお使い?」

「違うよ、今日は藪入りだ」

「そっか、じゃ、お休みなんだね?どっか行くの?」

「…別に、ちょっとブラブラしてただけだよ。」

「ふぅん?」

「サヨ、お前、なんか用あんのか?」

「別に…夕方からおっかさんの店手伝うけど、それまではないよ。」

「じゃ、どっか行こうぜ。給金出たからよ、なんか買ってやるよ。」

「ホントに?」

「あぁ」

「やったぁ!」

サヨはぱぁっと笑って、

「ちょっと待っててね」

と家に戻ると、着けていた前掛けを外して置いてきたようだ。
あちこち引っ張りながら着物の着くずれを直し、ちょこんと市八の腕をつかむ。
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