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another storys
第8章 筒井筒【陽炎】
「ま、どっちだっていいよ、観たいってんなら切符買ってやる。」
「ありがと、市っちゃん!」
ぎゅうっと腕にしがみつくサヨに、
「ぶら下がんなよ、重てェな!」
と振り解きながら、前襟を引っ張るが、その顔はまんざらでもない。
道中も、サヨは芝居の陽炎について熱く語っていたが、その芝居の元になった陽炎という組織が、二十年の昔、この江戸に本当にいたことも、頭である市九郎が市八の実父であることも、さらには白と朱の元になったのが己の両親、八尋と赤猫(サチ)であることも、劇中には書かれていない、知られざる一員として、サヨの父である鷺、そして兵衛がいたことも、若いふたりは知る由もなかった。
「ありがと、市っちゃん!」
ぎゅうっと腕にしがみつくサヨに、
「ぶら下がんなよ、重てェな!」
と振り解きながら、前襟を引っ張るが、その顔はまんざらでもない。
道中も、サヨは芝居の陽炎について熱く語っていたが、その芝居の元になった陽炎という組織が、二十年の昔、この江戸に本当にいたことも、頭である市九郎が市八の実父であることも、さらには白と朱の元になったのが己の両親、八尋と赤猫(サチ)であることも、劇中には書かれていない、知られざる一員として、サヨの父である鷺、そして兵衛がいたことも、若いふたりは知る由もなかった。