パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第8章 筒井筒【陽炎】

「本当にお前は、正直な子だね。そんなもの、隠してうちの婿に納まってしまえば、暮らしも楽になるだろうに…婿に納まった身で余所に妾を囲う男などいくらでも居るよ。それはしたくないのだな？」

「それは、お嬢様にも、私の筒井筒にも、不実になります。」

市八の生真面目な返しに、ほっほっ、と笑いながら、

「奉公人の身であれば、婿の話なら喜んで飛びつくと思っていたが。これは私も考え違いをしていたようだ。」

「誠に、申し訳ございません…」

「怒っているのではないよ。私も歳を取ってから生まれたお香が可愛くてね。あれの我儘はつい聞いてやりたくなって しまうのだ。いやしかし、人の心ばかりはどうにもならん。お前が正直な男でよかったよ。では、これからも勤めに励んでおくれ」

「…あの…」

市八はきょとんとした顔で、恐る恐る主を見上げる。