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第11章 約束【陽炎】
小石川 高石養生所


「おじさん、鷺のおじさん!居るんでしょ?」

玄関先で大声で呼ばうと、座敷から

「おぅ、入れ!」

と鷺の声がした。

昔は洗足桶を持ってきてくれるおばさんが居たが、大分前に亡くなったと聞いた。

鷺と一緒に萬屋を営んでいた兵衛も、二三年前から病み付き、今年に入って死んだと聞いた。

「ありゃ酒の飲み過ぎだよ。息の臭いが良くなかった。肝がやられたんだ。」

兵衛が死んだ時、鷺は、寂しそうに呟いたと父から聞いた。以来、萬屋を仕切るのは鷺ひとりだ。
偶に父も手伝っているようだが、他にも人手は何人かある。

「ご注文の薬をお持ちしました。」

座敷に上がって鷺に声を掛ける。

鷺は重い溜息をついて

「市八よ…お前幾つンなる」

「…え?二十歳、ですけど?」

「今の店で。ひとり立ちできる目処は立ってんのか?」




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