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第14章 蝶の見る夢【陽炎】
六日目の夜。

常磐は座敷に赴く。
部屋の障子を開けた瞬間、客がすぐにこちらを振り仰いだ。

「よかった、もう来てくれないかと思ってたよ」

そう言ってニッと笑う。
その子供のような笑顔に常磐の頰も綻ぶ。

「おいでなんし。」

そう言って酌をしようとしたが、

「あ、俺あんま酒吞まねぇからよ、あンたが呑みな?」

と断られる。

「ほんにかぇ?」

狐につままれたような心持ちで、ふたり膳を摘み、囃子に合わせて手を叩いた。

「なぁ、花魁」

「…花魁は、名ではありんせん。わちきの名は、常磐と申しんす。常磐と呼んでおくれなんし…」

「わかった。常磐だな。俺ァ鷺だ。」

「サギ…様?」

変わった名前だ、と思った。

「恩ある人に鷺に似てるって言われてよ」

「さいざんすか」

面白い客だった。

遠目に見た時は声も高く、子供のように見えた鷺だったが、間近に寄ると思いの外男っぽく、常磐はどきりとした。
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