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another storys
第14章 蝶の見る夢【陽炎】

「主さまに、惚れんした…」
遊女の常套句。
幾度となく口にした台詞。
床を共にした客には、そう言えと教えられたから、贔屓の客には言ってきた。
相手もそれが解っているから、愛い奴と抱きしめて、また来るよ、と微笑んでくれる。
それが、吉原。
嘘の恋。
けれど、鷺はその言葉に微笑み、
「皆んなに言ってんだろ?」
その返しが、こんなに悲しく聞こえたことはなかった。
常磐の目からひと筋の涙が伝う。
「これは、心よりの気持ちでありんす…」
嘘の世界で真など。
求めるだけ無駄なもの。
決して手には入らぬ幻なのに。
そう言わずに居られなかった。
例え、信じて貰えずとも….
もうじき、泊まりの客が帰る時刻。
その、別れの朝がこんなに切なかったこともない。
自分の贔屓は幾度も返ってくれるお大尽ばかりだったから。
こんなに鮮烈な夜を過ごしたことがなかったから。
鷺は確かに金子を持っていた。
だが手持ちの金全てを吐いて此処に来たと言った。
常磐の贔屓に成れるほどの財はもうないのだろう。
遊女の常套句。
幾度となく口にした台詞。
床を共にした客には、そう言えと教えられたから、贔屓の客には言ってきた。
相手もそれが解っているから、愛い奴と抱きしめて、また来るよ、と微笑んでくれる。
それが、吉原。
嘘の恋。
けれど、鷺はその言葉に微笑み、
「皆んなに言ってんだろ?」
その返しが、こんなに悲しく聞こえたことはなかった。
常磐の目からひと筋の涙が伝う。
「これは、心よりの気持ちでありんす…」
嘘の世界で真など。
求めるだけ無駄なもの。
決して手には入らぬ幻なのに。
そう言わずに居られなかった。
例え、信じて貰えずとも….
もうじき、泊まりの客が帰る時刻。
その、別れの朝がこんなに切なかったこともない。
自分の贔屓は幾度も返ってくれるお大尽ばかりだったから。
こんなに鮮烈な夜を過ごしたことがなかったから。
鷺は確かに金子を持っていた。
だが手持ちの金全てを吐いて此処に来たと言った。
常磐の贔屓に成れるほどの財はもうないのだろう。

