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another storys
第18章 彼岸花【陽炎】
るいは、幼い頃に父を亡くし、母と二人で暮らしてきた。
だがその母も病を患い、るいが十八の時に亡くなった。
母が倒れた十五の年から、知り合いの料理屋を手伝い、母が亡くなった今は、料理屋に勤めながら生まれ育った長屋で独りで暮らしている。

色の白いうりざね顔、整った眉と鼻筋、切れ長の涼しげな目元。
るいは近所でも評判の別嬪で、はきはきとした物言いとよく笑う快活な性格の、料理屋の看板娘だった。
縁談は引きも切らず、いつも周りを男が取り巻いた。
それでも身持ちは固く、遊んだりしたことはない。
幼い頃から可愛らしかったるいの先を案じた母がいつも言っていた。

「身持ちの軽い女になるんじゃないよ?男は甘い言葉で誘ってくるかもしれない。けどね、そんなヤツは何時か離れてく。本当にこの人と思った人に嫁ぐんだ。女は固いくらいで丁度いいんだからね。」

勿論子供の頃から 意味のすべてを理解していたわけではないが、長じるにつれ、徐々に判ってきた。
そこに申し込んできたのが信吉だった。
信吉は、るいの勤める料理屋の常連だった。

日に焼けた肌、鍛え上げられた逞しい肩と腕は、軽く曲げるだけでも硬い力こぶを作る。
大柄なのに身も軽く、重い纏を持って屋根に上がり、仲間を鼓舞して纏を振り回す姿は勇壮で、若い女だけでなく、町民の憧れの的だった。

「信吉さん…嬉しい。」

るいはその白い頬を桜色に染め、背の高い信吉を見上げた。
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