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another storys
第18章 彼岸花【陽炎】
江戸の町は女よりも男が多く、嫁の貰い手には困らない。
一度嫁いで、何かしらの事情で離縁した女も、引く手数多だった。
離縁は男の側からしかできぬ決まりであったが、その男に不満が出たらいつでも家を出て行けるように、嫁ぐときには離縁状を書かせるのが一般的だった。
女はそれを保管しておき、何かあればそれを叩きつけ、男のもとを去る。

それでもどうなと生きていける。それが江戸の町だ。
そしてその離縁状に多く用いられた文言が、三行と少しくらいの長さであった為、離縁状のことを三行半(みくだりはん)と呼んだ。

結婚しても仕事を続け、家事も育児も精力的にこなし、亭主の放蕩や暴力に決して屈しない。
それが江戸の女なのだ。
信吉も例にもれず、るいに三行半を書いて預けるといった。
だがるいは首を横に振る。

「そんなもの、要らない。私はずぅっと信吉さんと居たいから。」

そう言って逞ましい男の肩に頭を預け、甘える。
信吉はるいの頭を抱え込み、

「可愛いオンナだな」

と笑った。

これ以上の幸せなんかない、そう、るいは思った。
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