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another storys
第27章 帆掛舟【潮騒】
終戦から数年、まだ街中はヤミ市やバラックが軒を連ねていて、何もかも元通りとは行かんかったけど、それでも生きてる人間というのは逞しいもんや、と感心することが多々あった。

田舎に空襲は無かったようやけど、菊乃のとこの義理の弟が一人南方で戦死したということやった。正一郎さんも、私の弟二人も、無事復員したそうや。後は特に聞いてない。

そんな頃。
西宮に住まうある奥さんが、もうそろそろお産が近いとなって、呼ばれて様子を見に行った。

「もうすぐ赤ちゃんが生まれんのに、そないに思いつめた顔せんで。お母さんの不安はお腹に伝わるんよ。話して楽になることやったら私に言うて?」

奥さんの手を握って摩りながら声を掛けた。

「…赤ちゃんが、男の子か女の子か、生まれる前に解りませんか…?」

「…男の子でも女の子でも、同じ貴女の子やないの。なんか事情があるの?」

「…うちの主人が…跡継ぎがどうしても要るというて…」

あぁ、大きなお屋敷やし、そういう問題はよう聞く話やった。
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