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第4章 化猫奇譚【陽炎】
市八は黙って項垂れる。

「父ちゃんは、母ちゃんと初めて会って話した時、こんなに心根の澄んだ美しい人は見たことがないと思った。顔形でなく、母ちゃんの心が、とても美しかったから。それですぐに好きなったよ。だから、恥じることなど何もないんだ。」

「他の人になんと言われても、父ちゃんと市八が違うと言ってくれたら、母ちゃんはそれだけでいいの。だから、大丈夫よ。なんと言われても、知らぬ顔をしておきなさい。いちいち怒っていてはキリがないわ。」

市八は両親の顔を振り仰ぎ、唇を噛みしめる。

「…ただね、お前の言い分も解らないでもない。誰だって好きな人やモノを馬鹿にされるのは悔しいものだ。やられっぱなしも癪だし、一泡吹かせてやりたい気持ちは解るよ。だけど、だからと言って真正面からぶつかるのはあまり賢いとは言えないね。あちらの方が数が多いのだから、それだけでつりあいは取れていないのだもの。こちらも頭を使わねば。」

そう言って八尋はニヤリと笑う。

サチは溜息をついて、市八の手当てを終えた。
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