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第4章 化猫奇譚【陽炎】
暗くなってももちろん猫は見つからぬ。猫は小石川の兵衛の家に居ついているからだ。

諦めて帰ろう、手を煩わせてすまなかった、と頭を下げ、帰ろうとした市八の後を嘉助たちがこっそり追う。

そこに登場するのが、細い杖で前を探る鷺だ。

鷺は悪童達が歩いているのを足音で察しながら、わざとぶつかって派手にこける。

「気ィつけやがれ、ジジィ!」

唾を吐き捨てた嘉助に、鷺は立ち上がりながら

「おや?坊主お前、獣臭ぇな。さては獣に祟られてんじゃねえか?」

「臭くなんかねぇ!」

「…こっちぁ親切に教えてやってんだぞ。いいか、めくらの鼻を舐めんなよ。もう何十年も耳と鼻だけで生きてんだ。目あきにゃわからねぇ微かなにおいだってオレにはわかるんだ。…まぁ、大人の助言を聞かねぇ糞餓鬼が何に祟られようが知ったこっちゃねぇけどよ。せいぜい気をつけるこった。」

軽く手を挙げ、杖を頼りに3人から離れていく。

「んなワケあるかい!タタリなんかある訳ねぇだろうが!」

吐き捨てるように呟き、歩き出した三人。そこに、杖をついた兵衛が通り掛かる。

「祟りとか聞こえたが…そうか、信じておらぬか。だかな、祟りはあるぞ。狐狸妖怪と言うであろうが。猫も祟るなぁ。化け猫は本当におるのだぞ?」

兵衛の低い声は、夕闇に不気味に響く。

「猫は七代祟ると言うでなぁ…いたずらに殺したり傷つけたりせぬ事じゃ…ヤツらは人より執念深い。加えて獣の臭いは悪しきモノも引き寄せる…くわばらくわばら…」

「馬鹿言うなっ!信じるか、そんな話!帰るぞ!」

三人は憤慨して帰っていく。市八、鷺、兵衛はこっそりと笑ってそれを見送った。
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