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淫徳のスゝメ
第4章 私が天涯孤独になったこと

* * * * * * *


 本格的に梅雨入りしていた。

 講義室をいっそう湿らす夾雑音が、私を妙なる心地にとどめる。



「…………ぃ。……てぃ」





 何をしていても満たされない。

 贅沢、自己愛、選民意識──…特別な血筋を持って生まれた私の特権は、確かに私をきらびやかな恍惚に連れ出しながら、白々しい光の果てではのべつ底知れない暗鬱たるものが舌舐めずりをしている。

 私自身の所為ではない、あの不快なきよらやお母様が元凶でもない。


 否、私が引き起こした不運だ。

 悪辣な偏見、体裁、嘘に嘘を塗り固めてまで多数派同調バイアスの本能に準じる人間達のどす黒さから、目を背けられない私自身の。



 美しい洋服でめかし込んで、脱ぎ捨てて、女達の性を啜る。

 三度以上、同じワードローブはまとわない。装飾品も、女の性も、私は湯水のごとく空費している。

 この空費の行動さえ、猜疑する。度の過ぎた消費を行うことで、私は現世の破壊を確実に進めている錯覚に自ら陥っているのかも知れない。


 人間は、進化しすぎた。人間の有害な繁殖について、有本さんと語らったあと、私はいつにも増して濡れる。有本さんとブーケのデザートを分け合う時、私はもう一度裸になって、成熟したあの肉体に呼び水を施したがるくらいだ。


 そう、私は、お父様にも有本さんにも、お兄様やその他大勢の人間達にも、主導権を握っていなければ気が済まなかった。
 彼らは美辞麗句で思い上がって、人間の好く表層的な口舌を振舞ってやるだけで、私を猫可愛がりする。私に横柄な身体を開く。
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