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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
「ご結婚おめでとう。姫猫もこれから大変になるわね」
「有り難うございます。そうですね、お兄様は滅多に帰ってきませんから、実質、私が紀子さんと結婚したようなものですわ」
「姫猫。昨夜の遊さんの決意、さっきの神父に言ってやれば良かったのに。健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も──…これを愛することを誓いますか?じゃなくて、よその恋人達をいたわりますか?じゃなくちゃ、あの人達が可哀想」
まづるが視線で示したのは、セレブリティの群れに潜んだ庶民らだ。
揃いに揃って美形だ。
金にものを言わせるだけの裕福層達と違って、洋服のセンスにも長けた彼らは、不自然なまでに絵になっている。
「あの子達、皆、遊くんのセフレ?」
有本さんが、好奇の目を見開いた。
お兄様が招待した愛人達は、ざっと五十人近くいる。中には数年前、お父様との折り合いを悪くして退職したメイドと思しき顔もあった。
「お兄様の夢は、彼らとも結婚することなのですって」
「まぁ」
「詭弁家達は、結婚を優れたことと考えています。特に日本では、異性同士の結婚が幸福とされているとか。式典は、改まったものと定義しておきながら、甚だエンターテイメント性がありますわ。そんな娯楽で彼らは彼らの結束を再確認し、私達のように真理を見極めたがるひと握りの者達を言いくるめたつもりになれるのでしたら、お兄様はいくらでもサービスして差し上げたいようです。紀子さんとの結婚は、序盤に過ぎません。お兄様は、いずれ二人の間に生まれるお子さんとも、愛とやらを育みたいのですって」
「この話を聞いた時は、遊さんを見直したな。重婚だけでも面倒臭いだろうに、お子さんとパートナーの契約を結ぶとなると、よほど紀子さんを調教しておかなくちゃ……」
「それじゃあ、紀子さんに淫徳を叩き込むのは、まづるがやって差し上げたら」
私の諧謔に有本さんの朗らかな笑みが立った。
一方、まづるの顔は神妙だ。
それもありかも──…。こうも人妻を好物とする親友を見ていると、いっそ私もそこいらの浮浪者とでも籍を入れてしまいたくなるものだ。