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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
「感染率は申し分ないわ。咳だけでなく汗や愛液、精液を通しても第三者に行き渡る。姫猫は私の指示したスーパーマーケットへ行って、このスプレーを野菜にひとかけするだけ。赤札のついた野菜にしなさい、採りたての野菜を蔑ろにしてセール品にありつくような人間こそ、特に世の中を悪くする。ただ一滴、それだけで千人の人間は処分出来る。手始めに五ヶ所で作業しましょう、そこの野菜売り場だけウィルスが発生したのでは、あとあと私の仕事が増えるから。農家の過失ではない、もちろん市場の怠慢でもない、姫猫は人智を超えたところで、自然にウィルスを発生させるの」
「畏れながら、お訊きしても良ろしいでしょうか。何故、そのような大量殺人を……」
「私の気持ちは知っているくせに」
アトマイザーを置いた有本さんは、相変わらず私を撫で回していた。
私も有本さんに腕を絡めて、色めいたのとはまた別ものの戦慄を覚えていた。
有本さんは、ことあるごとに繁殖の貪汚を嘆いていた。
人類は、存在価値にも見合わざる数を上回り、その分、無益な文明、徒爾な欺瞞を蔓延らせてきた。
くだらない。意地汚い。白々しい。
世界は私達を攻撃し、私達に攻撃させるマイナス要因で成り立っている。
西洋人が持ち物を少量に抑えることを好むように、有本さんも、国民を一掃したがっているところがあった。