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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
今のところ、仏野の屋敷に有本さんの影響はない。あの明け方、お兄様が珍しく機敏になって、私に反省文を書かせた甲斐があったのだろう。半分はお兄様の考えた文面だ。
丸井の話によると、故郷では、表向き私はきよらと同じで仏野の恥晒しということになっている。
そして私の醜聞は、やがてまづるの耳にも入る。もとより私が二週間も学校を休んだ時点で、とっくに情報は渡っているか。
「お勉強のお時間です、姫猫様」
いつかまづるの勧めで途中まで読んでいた官能小説の頁をめくっていた時、私をさびれた田舎村に引きずり戻す声がした。
私の手元に残った私物は、六畳の部屋に置いても少ない、洋服、装飾品、化粧品と僅かな手慰みだけだ。
時代の止まったこの辺境では、私の格好は人間の中でも特に奇抜な思考に依存している村人達に不躾な目を向けられる所以、私は日中、読書やテレビに明け暮れるより他にない。
「どうせ私ははぐれ者。この田舎で一生を終えるというのに、何を学ぶ必要があるの」
特に勉学を嫌っているわけではないが、必要性も覚えないのは、私の不登校時代からの性分だ。
私は、終わった。
稜の占術を一笑に付して、根拠もない臆病風に吹かれたばかりに、私は刹那怖れた以上に大きな全てを失った。
女と、男とでさえ結合しなくなって、二週間も経っている。