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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
「律子……」
私は、律子の寝間着も除いていった。
愛着をいだいた試しもない女、肉体も、私にさしたる感動も与えない。
いつかまづるが話していたか。配偶者と呼び合う女と男が互いを煙たがる理由、そこには確かに性別の壁もあるかも知れない。
だが、私と律子は女と女、それでも私は彼女を煙たがっていた。
梟雄は、かたちにこじつけた所有権なのだ。それはあくまでかたちだけだ。お父様が話していた、人間がつくった規則によって、人間が人間を桎梏するツール、それが婚姻という悪徳なのだ。
私は悪徳に結ばれた配偶者のキスを受けて、喉で喘ぐ。律子の唇をこじ開けて歯茎や口蓋をなぞりながら、欲情などしなくなったはずの肉体をまさぐる内に、やはり腹の奥が切なく疼く感覚が私を覆う。
じゅるっ、じゅる……
ちゅっ、ちゅぅぅぅ……ずずっ…………
二つの肉厚の生き物が、僅かな釁隙を遊ぶ唾液を踊る。
私は、自戒を解こうとしていた。私のため、そして、律子のためだ。
同情心を働かせてはいけない。だが、少なくとも私がここで快適に暮らせたのは律子のお陰だし、残忍な世間の連中から律子を奪い上げること、それは律子自身のためというより、結果的に私のためになる。
「律子……愛してる……。貴女を守るわ……」