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淫徳のスゝメ
第5章 私の暗黒時代のこと
* * * * * * *
訪う客達のスーツから新涼ほのめく季節になった。
選りすぐりの弄び種らを奴隷にしては高値で貸し出している店長は、相変わらず私を金の卵を産む鶏よろしく待遇していた。同様に、過剰な暖衣飽食を奢っている客達は、私を頑丈な道具のように使役していた。
美園竜次(みそのりゅうじ)が現れたのは、葉月の暮れだ。
年のほどは五十代前半で、鼠色の頭をした、街では頻りと見かけた種類の中年男だ。
美園は決まって質素な背広を着込んでおり、遊戯室に入るとまずは使い古したバッグから半巾を出して汗を拭く。その半巾は、日ごとに色やデザインこそ違えど、共通して高級なアパレルショップのロゴが入っている。美園曰く、彼は県を治められるだけの地位を狙っているという。国民はきらびやかな有権者を嫌う。そのため公務を離れたところでだけ、酔飽し、女を抱いて、身を飾り立てるらしい。
「こんにちは、きよらちゃん」
私の許に、今夜も美園が訪った。
贅沢品には疎い私の目から見ても分かる、いかにも安価な量産スーツは、脂の乗った男が着ると、いやが上にもわざとらしい。うっすらとしみのあるこめかみを押さえ始めた半巾だけが、その貫禄に馴染んでいた。
「ご指名有り難うございます、美園様」
「まぁ座っていなさい。そこに袋があるだろう、滋養強壮剤だ。さっき薬局に寄ってな、おじさんはシャワーを浴びてくるから、きよらちゃんは飲んでいてくれ」
「私もシャワーを浴びますわ」
「きよらちゃんは、働きづめだと有名だ。シャンプーの良い匂いがする……君にシャワーの必要なんかあるもんか。おじさんが加齢臭を誤魔化している内に、シーツでも被ってゆっくりおやすみ」
美園は私の髪を嗅ぐと、胸を覆うくらいに伸びたそれをくしゃりと撫でた。