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淫徳のスゝメ
第2章 私が享楽的親友に出逢うまでのこと





「…………」


 私はスマートフォンを握っていた。


 唯子ちゃんに抱かれたばかりだ。唯子ちゃんを抱き締めたばかりだ。



 だのに、面識もない少女達の行動は、私の衝動を煽動するのに十分だった。



「──……」


 呼び出し音が鳴り出した。


『まづる様?』


 電話口に聞こえたのは、どことなくやつれた女の声だ。

 谷村直美。三十五歳、専業主婦。

 配偶者がリストラに遭って以来、年収は宝くじの四等にも満たない彼と一人娘を養っている、律儀な女だ。


「直美……。会える?」

『今から?』

「うん」

『良人は零時まで帰ってこないわ』

 十分だ。私は明日も学校がある。

「いくらかいる?」

『水道代が……もうじき止まりそうで……』


 さしたる矜持もないくせに、声音だけは、立派に羞恥を繕えるのか。

 目蓋の裏に、直美のみじめな顔が浮かんだ。

 私は征服欲に全身が打ち震えるのを窘めながら、努めて冷静な口調を保った。
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