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《愛撫の先に…》
第6章 《ぬくもり…》
***

数日後の夜。
菜々美は結城と待ち合わせて中谷に会う約束をしていた。

やはり中谷は和食が好きなのか座敷の個室で彼は2人を迎え。
中谷・結城の仲の良い馴染みの挨拶の後、
菜々美は後ろめたさと申し訳なさから精一杯の声で謝罪する。

『大切な傘を駄目にしてごめんなさいっ!』

『江崎さん?頭をあげてください。
訳は結城くんから聞いて知っていますから』

『…結城さんから?』
顔をあげた菜々美は斜め前に立つ結城を見ると、
気にしないでという表情で頷いて。

結城さん…

『江崎さんは傘の為に泣いてくれた事が誠意だと思えて、
孫の希美ちゃんには黙っておくことにしましょう』

孫の希美ちゃん…
きっとおじいちゃんへの誕生日プレゼントの傘がないとわかると悲しむから…

『菜々美さんストップ、
泣かない約束』
涙腺が緩みそうになった彼女に結城は首を振り、
彼女に渡した品物へと目線を移すかのように手で促した。

『同じ物を探して数日かかりましたが弁償させてください』
『弁償なんて僕は…』
中谷が戸惑う。

『中谷さん彼女の気持ちです』
結城は2人の間に立ち穏やかな表情を作る。

中谷への傘――
同じ物を手にするには結城により手配され、
同じように名前を刺繍する特別注文に至っている。

結城はそんな経緯等何も言わずに菜々美からの品物だと言うかのよう。

“結城さん…”
“それで良い、
俺はたいした事はしていないから”

そんな内容がなされたかのような2人の表情が信頼を物語る。
食事が始まり店を出る間際まで、
中谷・結城は長いつき合いらしく時折笑いながら菜々美の知らない人物について話している。

中谷さんが羨ましい…
会話の人達に嫉妬しそう…
何故ならば結城さんが少年のように笑っているから…
あたしは会話さえも入っていけない………

あの日車から守るように覆い被さってきた結城さんのぬくもりが嫌ではなかったの―――

あたしあの日に気がついた!
結城啓輔さんが好き―――!
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