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わたしはショートケーキが嫌い
第7章 グレーテルは知らない
気分が悪くなってその場にしゃがみ、込み上げる吐き気に耐えた。
そんな私を彼はものすごく心配してくれていた。
あの時パパはなんて言ってた?
誰の名前を言ってた?
そもそも本当に誰かの名前を叫んでた?
「気持ち悪い‥‥‥」
そう言った次の瞬間、私は嘔吐していた。
胃液とさっき噛じった林檎が床に散らばる。
鼻を突く異臭が、錆びた鉄のような臭いを放つ腐臭と混じり合う。
「これで口を拭いて」
あたふたしながら彼が水で湿らせたハンカチを私の汚れた口に当てる。
ヒンヤリして気持ちいい。
「‥‥‥ちょっと寝た方がいい」
そう言い彼は弱る私を軽々と抱き上げた。
細身で華奢な体付きなのに‥‥すごい力。
私をベッドに寝かせると、彼は私から視界を奪った。
細いけどゴツゴツした指先で私の目を覆い、目隠しをする彼。
そして子供を寝かしつけるような優しい声で私に言った。
「全部悪い夢だよ。大丈夫。大丈夫だよ」
少し、彼の声が震えているような気がした。