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いとかなし
第14章 おもいねに わがこころから
虫の音が聞こえる静かな夜に、ふゆはとっくに寝息を立てている。

「ふゆ…」

初めてここで泣いた、ふゆのお陰で。

ふゆを見つめる糸の目に涙が溜まっていく。

別れは必ず来る、誰にも平等に。

「糸…」

啓司は横向きのまま右腕を伸ばし、糸の頭を撫でた。

「手、握って」

啓司のお願いなのに、縋るように糸はその手を握った。

「あったかい…ふゆも啓司さんの手も…」

目尻からたまらなく溢れた涙は、糸の瞼をそのまま引き連れていった。

「ふゆ、最期は待っててやってくれるか?」

左手でふゆの背中をそっと撫でた。

ふゆはゆっくりと毎日を過ごすようになった。

外へ出ていつもの何倍もかけて近所を散歩する日も、距離が短くなり、少しずつ減っていった。
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