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いとかなし
第16章 あをまつと きみがぬれけん
終電を告げる放送が遠くに聞こえる。

「…はっ…ぁ…」

唇を離すと、深く酸素を吸い込んだ。

「せっかくお許しを貰ったのに、これ以上したら嫌われそうだから…帰ります」

賢都はおでこにそっとキスをすると、ひらりを身を翻してホームを駆け上がって行く。

糸はぼうっとしたままそれを見送った。

ICカードを翳して改札を出る。

人もまばらな駅前をいつもの方向へと歩き出す。

「啓司さ…」

バス乗り場の植え込みに啓司が腰をかけていた。

「お帰り、やっぱ心配で来ちゃった」

にこっと笑う啓司の笑顔に、糸は上手く笑えずに立ちすくむ。

「疲れた?飲みすぎたとか?」

「ん…ちょっと飲みすぎたかも…」

啓司の笑顔に目頭が熱くなる。
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