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いとかなし
第16章 あをまつと きみがぬれけん
啓司に手を引かれ、都合のいい涙を気づかれないように少し俯いて歩き出す。

「月が綺麗だね」

「…うん…」

宵に浮かぶ半月を見ながら、いつもの道を辿る。

啓司の後ろ姿がやけに遠くに見えて、我慢していた涙が音も立てずにこぼれ落ちていく。

「糸…っ?」

手を解いて、啓司の背中に抱きついた。

道の真ん中で、照らす街灯も遠くて、二人闇に消えてしまいそうだ。

「糸?…泣いてるの?」

無言で首を横に振るけれど、鼻をすする音が静けさに浮き彫りになる。

「何かあった?」

深く問い質さないのは啓司の優しさだ。

でも今はそれも涙を誘う。

腰に回した手にそっと啓司のが重なる。

温もりが伝わり、糸は啓司の背中に頬を当ててその匂いを胸一杯に吸い込んで涙を止めた。
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