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いとかなし
第16章 あをまつと きみがぬれけん
終わりの見えないキスの嵐に、糸は息苦しささえ感じて啓司の胸を押した。

「んっ、ふぁっ…」

やっと離れた唇の代わりに大きく息を吸う。

「啓司さん…?」

「誰に泣かされた?俺?それともこの移り香を残した奴?」

啓司の瞳は複雑に揺れていた。

移り香を残すほど近づいた相手への嫉妬の炎か、涙の理由もわからない自分への苛立ちなのか。

「俺は…本当は優しく無い…優しくなんかないんだ」

糸はそれを否定するように首を振る。

「今だって…糸をめちゃくちゃにしてしまいそうなのを…必死で抑えてる」

「…怒ったの?」

「俺以外の男が糸の中にいる、違う?」

脳裏をよぎるのは賢都の顔で、無言は肯定だった。

「壊さない様にしてたのが裏目にでた」

啓司の瞳に哀しみが滲んだ。
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