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いとかなし
第17章 まよいそめし ちぎりおもうが
ホッとしたような表情を見せる賢都に、糸の胸が締め付けられた。

「あ、電車来ましたよ、混んでるなぁ」

二人して電車に乗り込むと賢都はドアに手をついて、その中に糸を入れた。

「汗臭くてすいません」

「え?全然しないよ?」

もうすっかり秋の気配で、走ってきた賢都だけれど、そこまで汗ばんではいなかった。

汗臭いどころか、袖口からはシトラスの香りがほのかに漂っている。

「もう…普通に話せないかと思ってたから、今、スゲェ嬉しい」

「そんな…」

気持ちをはっきり言葉にする賢都。

「…ごめん、困らせてる?」

はいともいいえとも言い辛いのは、賢都の素直すぎる言葉のせいだ。

糸は自分の気持ちを上手く形に出来ないのに。
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