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いとかなし
第17章 まよいそめし ちぎりおもうが
真剣な顔で、熱い瞳で真っ直ぐに糸を見つめる。

「…じゃぁ、お疲れ様でした」

するりと解けた手が熱を失う。

軽やかに階段を昇っていく賢都の背中を見えなくなるまで見送る。

電車が発車したのを耳にして、糸は改札をくぐった。

啓司の姿は無く、糸は家路を一人で辿った。

玄関の引き戸を開けるとそこにはよるが鎮座していた。

「よる、ただいま」

よるを抱き上げてキッチンに向かう。

躊躇いながらそこへ足を踏み入れると、温かい夕飯が食卓に並んでいた。

「お疲れ様、手洗っておいで」

啓司の笑顔は何処か哀しげに見えてしまうのは、糸が後ろめたさを感じているからなのか。

1日の出来事を取り留めなく話しながらの夕食だけれど、最近は途中で啓司は席を立ち夜勤へと出向いてしまう。
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