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いとかなし
第18章 ますらおも かくこいけるを
深月を見送って家路につく。

優しさは、失う事への恐怖…啓司があの笑顔の裏でそんな風に思っていたなんて。

家の前でスマホが震えた。

着信は賢都。

今は…出たくない。

糸はそのままにして部屋へと戻った。

縁側によると並んで横になると、ぽかぽかとした陽気に糸の瞼が重くなっていった。

啓司が笑っていた。

ちゃんとこっちを見て、糸の好きな満面の屈託のない笑顔。

ああ、私はこの笑顔が好きになったんだと思い返す。

目覚めたら…啓司に逢いたい。

無性に。

…と…いと…

名前を呼ぶのは愛しい声。

目を開けたいけれど、この声がただの願望で、そこにあの哀しい笑顔だったら?

いと…おきて…

温かい手が頭を撫でてくれるのが嬉しくて、糸はゆっくりと目を覚ました。
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