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いとかなし
第3章 昔はものを 思はざりけり
にぎにぎと何かを期待している啓司。

「あの…?」

啓司はにこにこして、視線を掌に落とすばかり。

糸はそろりとその手に自分の手を翳す。

すると啓司はそれをぎゅっと握った。

「当たり、よく出来ました」

駐車場に着くまでのほんの数分。

大きな手に包まれた糸は緩んだ口元に気付かれないように少しだけ俯いて歩いた。

家に着くとふゆとそらを連れて散歩に行く。

おじいちゃんのふゆと糸はゆっくり歩くけれど、そらと啓司は全速力で公園を走り回っている。

時々糸とふゆに向かって大きく手を振ってくる。

一週間の間に最低の涙を零し、最高の笑顔を浮かべる。

男性としては同じなのに、もたらしてくれるものは全然違うものだった。
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