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いとかなし
第3章 昔はものを 思はざりけり
額に浮かんだ汗をTシャツの裾を捲って拭う啓司。

突然露わになった割れた腹筋に、目のやり場に困ってしまいふゆを見つめた。

「ん」

満面の笑みでまた左手を差し出されると、糸は笑みを堪えながら掌を重ねた。

河原を吹き抜ける風が、火照った頬を心地よく撫でていく。

「ここ、桜並木なんだ、来年は一緒に見よう」

当たり前のように啓司が言う約束に、嬉しいと思ってしまう次の瞬間、自分を戒めてしまう。

啓司の優しささえ疑ってしまう。

門戸の前に人影が佇んでいる。

そらがぐっと紐を引っ張った。

「眞紘!!」

顔馴染みらしきその人は細身の白のパンツにビックサイズのTシャツ、サンダル履きでマスクをしている。
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