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いとかなし
第1章 などみをつくし 思いそめけむ
外回りに出る荷物を纏めていた時、ランチ用の所持金を確認しようとして気付いた。

クレジットカードがない。

先月末、歩がお気に入りのショップからweb限定のスニーカーが出るからと貸したままだという事に、今更気付く。

「金の切れ目は縁の切れ目!寄ってやるからすぐ返してもらえ」

担当営業の一人、若方 綾時(わかた りょうじ)は呆れと苛立ちを混ぜた表情でハンドルを切った。

綾時には残業や飲み会の後に、何度か家まで送ってもらった事があった。

目と鼻の先に営業車を停めてもらい、エレベーターで5階へ上がる。

時計は11時を指そうとしていたけれど、万が一を考えてドアはゆっくり開けた。

薄暗い玄関で前を見据えたままパンプスを脱いで、部屋へ続くドアを開けた。
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