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いとかなし
第4章 しのぶれど 色に出にけり
否定するのも虚しくて立ち上がる。

「お風呂入れてきます」

糸が背を向けた時、後ろから啓司が抱きしめた。

「糸ちゃんは可愛いよ、本当可愛い」

啓司の腕の中にすっぽりと収まり、啓司の匂いに包まれると心臓が飛び出でくるのでは無いかと心配になる程高鳴ってしまう。

「あ、まりさ…」

「他の男に…あんまり近づかないでよ…」

耳元で囁かれれば、淡い期待に胸がときめく。

「それ…どういう意味…」

答える代わりに腕が解けていく。

「ごめん、俺ダサすぎるな」

いつもの笑顔よりどこかぎこちないけれど、意味をかわされた糸にそれ以上踏み込む勇気はなかった。

お風呂上がり、啓司はいつもの笑顔でレモネードを注いでくれた。
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