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いとかなし
第5章 みをつくしてや   恋ひわたるべき
住居も食事も至れり尽くせりで、不満などない。

それなのに、違っているとわかっていながら、歩と比べてしまうのが嫌だった。

「歩の事なんて…思い出したくないのに…忘れたままでいたいよ」

千津子は糸の肩を抱き寄せた。

しぐれが不安そうに糸を見上げていた。

「久しぶり〜」

ビールを片手に二人の前に現れたのは恒平。

「恒平さん、相変わらず…」

「え?何々?相変わらずカッコいいとか?」

頭を抱える千津子に、糸は小さく吹き出した。

「啓司との生活はどう?」

「はい、良くしてもらってます」

「ふーん…啓司が元彼に会いに行った事知ってる?」

「「え?!」」

「客としてだけどね」

「なにしに?」

「さぁ?それは本人に聞きなよ」

眼を細めるだけの恒平に、千津子は思い切り睨んでいた。
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