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いとかなし
第7章 ひとしれず おもえばくるし
覚悟を決めた様にそっと唇が開いていく。

「け、いし、さっ、ンッ!」

呼び終わるか終わらないかで啓司は糸を引き寄せてキスをした。

唇を合わせただけなのに、心臓を鷲掴みにされたように切なくなる。

呼吸の仕方も忘れて、啓司がくれる温もりだけを感じていた。

「糸、好きだよ」

離れていった啓司の初めての言葉がそれで、糸は溢れんばかりの笑顔を零した。

「…はれ、煩い」

鳴き声で甘い時間を妨害するはれに、啓司は人差し指を立てて窘めた。

はれは鳴くのを止めた代わりに啓司のお腹をパンチする。

「はれ、お前、マジで邪魔」

啓司とはれの視線はバチバチと火花を散らしている様だ。

「はれ、おいで」

糸がはれを抱き上げる。
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