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いとかなし
第1章 などみをつくし 思いそめけむ
「何なのよっ!あのクソ野郎!!」

ランチタイムを過ぎたとはいえ、千津子の声は憤慨していて大きく離れた席の客が振り返る程だった。

「糸!とっとと荷物纏めに行くよ!うちに来なさいっ!!」

「宮野!わかったから、声をもう少し小さく…」

綾時は周りに頭を下げながら、千津子を座らせた。

千津子はすぐに会社へ電話し、気分が悪いという一言だけで自分と糸の分の午後休を取り付けた。

綾時に送ってもらい、いざ部屋を目の前にすると躊躇ってしまう。

「糸!行くよ!!」

千津子に押される様に中にはいると、情事の跡がそのままになっていた。

舌打ちをする千津子に苦笑いを浮かべ、クローゼットから服を出し、洗面所にあるメイク一式を鞄に詰めた。

千津子は目についた糸好みの食器やリネン類、シャンプーまで袋に突っ込んだ。
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