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いとかなし
第8章 いろならば いづれかいかに
お昼は蕎麦。

つなぐ手を見つめては、笑みを零す糸。

「糸の笑顔、好きだよ」

頬を朱色に染めて、糸は少しだけ身を寄せた。

「凄く嬉しくて…幸せだなあって思います」

「俺も、やっと彼氏らしいことしてあげれたし…ごめんね、仕事だとはいえなかなかデートも出来なくて」

平日は週の半分は企業チームの夜練習に付き合い、土日も試合や研修でデートらしいデートは初めてだった。

旅館に着くと、女将さんが玄関に出迎えていて、通された部屋に糸は恐縮した。

和モダンの部屋からは露天風呂が見える。

襖の向こうには低く大人が三人は寝れそうな広いベッドが備え付けてあった。

「凄いな…」

開いた口が塞がらない啓司に、糸も頷いた。
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