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いとかなし
第8章 いろならば いづれかいかに
胸が焦がれて、理性が焼き切られそうだった。

「大事に…「甘利様、夕餉の支度に参りました」

「いっ…?!もう?!」

お約束の様に現れた仲居さんに、二人は顔を見合わせて笑った。

夕食は海の幸と山の幸を存分に楽しめる内容で、これまた豪華な食事だった。

冷酒が付いていたのは元々予約した人への計らいらしい。

「美味しい」

初めての冷酒に少しだけ口をつけた糸は、その味と飲みやすさに感激していた。

「糸はお酒飲まないよね?」

「あんまり強くないんで、忘年会とかでは飲んだふりしてます」

「そっか…あと、敬語、いらなくない?」

「あ、そうです…ね…」

「慣れない?」

「急には…」

「なんか距離感じる」

啓司は拗ねたように手招きした。
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