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kiss
第10章 hand
 夕刻、残業に追われている俺の肩に缶コーヒーが乗せられた。
 キーボードを打ちつつ、落ちないようにそれを受けとる。
「ありがとうございます」
「わ。洋ちゃん片手でプルタブ空けられんの。どうやったそれ」
「今忙しいんで」
 疲れと言うものがこの男にはないのだろうか。
 飄々と資料を片付ける横顔に嫉妬を感じずにはいられない。
 たった二年の差。
 こんなに大きいのか。

「やっと上がり? お疲れ様」
 社員玄関で待っていた美浦に些か驚いてしまう。
「なに、なにしてるんですか」
 秋コートの襟元に口許を埋め、眼だけで美浦は微笑んだ。
 綺麗な瞳。
 夜のネオンを吸収して。
 くい、と腕を引かれる。
「美浦さん?」
「夕飯奢るからちょっと買い物付き合ってくれない?」
 ああ。
 記念日のプレゼントね。
 照れて笑む貴方をどれだけの女性社員が求めているのか知っていますか。

 二ヶ月後のクリスマスを今から出迎える気満々の街を歩く。
 美浦はショーウィンドウを眺めながら、幸せそうに物色していた。
「今まで何かあげたことあるんですか」
「出張行く時にバイブ。喜んでくれなかったけど」
「当たり前ですよ」
 間髪入れずに突っ込んだ俺を意外そうに見つめる。
 この男は……
「なんで? 寂しくないようにって」
「小学生に大人の玩具あげて喜ぶわけないでしょう。美浦さんは子どもの気持ちをわかってません」
「じゃあ洋ちゃんなら何あげる?」
 そこで俺は夜空を見上げて思案する。
 小学生男子、か。
「ゲームか、スポーツ用品ですね」
「ハヤ、絶望的に運動できないんだよね……」
「サッカーボールかバスケットボールはどうです?」
「話聞いてた?」
「聞いてますよ。だからこそ教えながら一緒に遊ぶんじゃないですか。運動できないと男子は辛いですからね……出来るようになると凄く喜ぶと思いますよ」
 美浦が納得するように神妙に頷く。
 スポーツ用品店でボールを購入してから、真剣な表情で俺に尋ねた。
「ひょっとして……」
 ああもう。
 表情でわかった。
 次に続く言葉が。
「洋ちゃん、子どもいる?」
「普通弟を予想しません?」
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