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kiss
第11章 neck
「江美さんてさ」
あら。
声色が変わった。
真剣な、暗い声に。
そう。
ここに来たときと同じ声に。
「楽しい?」
「なぁにが?」
訊かれていることはわかってる。
でも、ちゃんと尋ねられないとこっちもちゃんとは答えたくない。
「こうやって……俺みたいな会ったばかりの男とセックスして、楽しい?」
「んふ。客に向かって生意気ね」
握られた手をシーツに押し付け、空いた手を葵の首に伸ばす。
ぎゅ、と締められ怪訝そうに眉をしかめる。
少しずつ力を強め、指を回していく。
「っく……」
「今まで客に殺されかけたことある? こうやって」
ぐぐ、と喉仏を押す。
葵の目尻に涙がにじんだ。
ああ、いい顔。
ヤってる時より必死で、イく時より艶めいて。
葵が繋いでいた手をほどいて、首を絞める手を引きはがそうとする。
「ネコやってるからって自分より弱いと思っちゃだめよ。もとは同じ体なんだから」
男らしい大きな手には適わず、ぱたんと手が落ちる。
息を求めて開いた口に酸素が入ることはない。
「あ、く……」
あ、やりすぎかしら。
力を緩め、手を下す。
葵は噎せながら荒く呼吸を繰り返した。
「怖いのよ」
「げほっ……はっ……え?」
髪を耳にかけて、宙を見上げる。
「楽しいのなんて逝ってる時だけ。他人だもの。密室に二人きり。恋人じゃない。今みたいに乱暴をされたって誰も助けてなんてくれない。怖いのよ。これって」
葵が真剣な目で自分の手を見つめる。
「……怖い?」
それから疑問を脳内で繰り返して顔をしかめた。
「ならなんで続けてるわけ?」
俺はやめたくてもやめれないのに。
そんな口ぶりね。
「それはやっぱり、楽しいからかもしれない。ひと時でもね、偽りでもね。矛盾してるけど、それを求めているからなのかも」
ぐにっと豊胸した胸を揉みあげられる。
「んっ」
「意味わかんない。こんな風に体も改造してまで知らない男に抱かれてたいわけ」
「自分に自信がなきゃつまらないじゃない?」
葵が首を摩りながらため息を吐く。
ええ、知ってる。
理解できるはずがない。
「時間……」
時計を見ると、五分前だった。
あーあ。
夕飯冷めちゃってるわ。
葵がベッドから降りて服を着る。
あっさりね。
それを頬杖をついて見守る。
「また来てくれる?」
葵は答えず出ていった。