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kiss
第11章 neck
飯塚の目線が首元に下がる。
喉仏を見るように。
「ああ、すみません。女性かと」
「んー? どちらかというと女だけど」
化粧もばっちりだし。
黒く縁どられた眼で飯塚を観察する。
広い肩幅にがっしりとした胸板。
逞しい腕に、血管の浮いた手の甲。
いいわあ……
眼福と思ってもう少し見てましょう。
「あの、お急ぎでした?」
「えー? あ、いえ。全然」
質問を聞き逃すところだったわ。
飯塚はそこでほんの少し顔を上気させた。
ほっとしたような、緊張してるような。
次は何を言うのかしら。
「もしよろしければ、僕と付き合って欲しいんですが」
「は?」
あらやだ、地声で言っちゃった。
十五分後、イタリアンレストランでパスタをくるくるとフォークに巻きながら二人は向かい合っていた。
「付き合ってって……昼食の相手のこと……」
「一人で店入るのが苦手で、コンビニでパンも味気ないじゃないですか」
見かけによらず繊細。
というより面倒?
味気のないオリーブパスタを頬張りながら溜息を吐く。
「じゃあ今はお昼休みなのね」
「いえ、午前上がりです」
「え? なんの仕事?」
「夜の……というしかないですが」
だから少し服がくたびれていたのね。
徹夜明けの食事がイタリアンてどうなのかしら。
「江美さんは?」
「アタシはバーで働いてるの。良かったら来て」
店のカードを渡すと、飯塚はすぐに内ポケットにしまった。
食後の珈琲を啜りながらデザートを待つ。
煙草、吸わないのかしら。
だったら好感が持てるわ。
キスもそっちの方が断然美味しいし。
「飯塚さんって」
「あの、ナンパとかじゃないですから!」
「はい?」
遮るように言い放った飯塚を凝視する。
何言ってんの、この男。
「そのっ。いきなりで申し訳なかったんですが、別にその……下心とかなく」
だんだん小さくなっていく声に頬が緩んでしまう。
もう。
どこまで見かけ倒しなのよ。
「わかってるわよ」
「でも」
「アタシみたいなオカマを誘うのなんて物好きくらいよ」
「貴方は綺麗ですよ」
「やーだ。なーに?」
「いや、本当に……」
照れるじゃないの。
そのタイミングでケーキが運ばれてきた。
ウエイトレスは、邪魔をしないようにと急いで立ち去った。
それがまた可笑しくて笑えてしまう。