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kiss
第11章 neck
「どうしたんです?」
 少し先を行ってしまった飯塚が引き返してくる。
「なんだかね、当たり前のことなんだけどね。貴方は女性と結婚するんだなあって」
 きょとんと。
 そうよね。
 わかるわけない。
 このモヤモヤとした気持ちなんて。
 好きな人と恋愛して、国にも身内にも快く結婚を認められて、結ばれる。
 生物的に正しいことだもの。
 周りは祝うに決まっている。
 どんなに相手に腹が立っても、愛し合って。
「そして……子供を産む」
「江美さん……」
 どうしてかしら。
 どうして、こんなに空しいのかしら。
 それなりに楽しい毎日だと思ってきたのに。
 美味しくお酒を飲んで客と語り合って、可愛い青年と交わって。
 おかしいわね。
 幸せなんて、思ったことなかったみたいに。
 通行人が視界を過っては消えていく。
 私達だけ意味なく立ち止まって。

「なんで……女じゃないんだろ」

 ああ、馬鹿ね。
 子供の頃に断ち切った悩み。
 十何年も経って引きずり出しちゃ無意味じゃないの。
 ほら。
 もう指一本動かない。
 思考の渦に飲み込まれて。
 マイナスの方へ向かっていく。
「ごめんなさいね。重い話しちゃって」
「構いませんよ」
 そっと肩を抱かれて道の端に連れられる。
 通行人から逃れるように。
 ああ、そうだった。
 道の真ん中なんて歩いたことなかった。
 いつも端を、恥ずかしくないふりをして堂々と。
 まっとうに生きる人達が近寄りがたくて。
 楽しいふりして、端を。
「江美さん、こっちを向いてください」
「やーよ」
 だって、きっと笑えないもの。
 アタシみたいのは笑顔が取り柄なのに。
 それすらなくなっちゃ、顔なんて見せられない。
 両肩に腕を乗せられる。
 包まれるように、目の前に飯塚がいる。
 一瞬そちらを向くと、そのまま抱きしめられた。
 飯塚の胸元にすり寄る。
 暖かくて。
 涙が出そう。
「横断歩道でぶつかったのは、わざとだったんです」
 耳元で飯塚が囁く。
「貴方を一目見て、どうにかして話しかけたいと思った。でも信号が青に変わってしまったら、きっと姿を見失って諦めてしまう。それで焦って、駆け寄ろうとして声が出なくて……肩をぶつけました」
「だからすぐ支えてくれたのね」
「転ばせたりなんかしたら大変ですから」
 目を瞑って心臓の音を聞く。
 バカな男の。
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