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kiss
第12章 eye
 一か月後。
 兄ちゃんは彼女と別れて、俺には彼女が出来ていた。
 中学の一個下の後輩で、向こうから告白してきたのだ。
 可愛い後輩の一人としか思ってなかったが、俺の為にって行動している姿がキた。
 ショートカットの活発な女子。
 なのに、二人きりになると途端に真っ赤になって。
 そのギャップも良かった。
 つないだ手がいつも熱くて、それが可愛くて。
 俺は兄ちゃんと帰ることをやめて、その子と放課後を過ごすようになった。
 家に帰ってはチャットをして、電話をすることもたまに。
「兄ちゃんはさ、なんで別れたの」
 夕飯の時に尋ねてみた。
 秋刀魚の内臓をほぐしながら兄ちゃんは曖昧な回答をした。
「恋人じゃなくなったから」
 それは別れた結果じゃないのか。
 俺は今の彼女を浮かべた。
 恋人って?
「兄ちゃんの描く恋人ってなんなわけ?」
 カチリ、と箸が皿にぶつかる。
 黒い腸を巻き付けて。
 眼鏡を整えて、兄ちゃんは宙を見つめた。
 思い出すように。
 物思いに耽るように。
「欲しくて求め続けるものじゃねえの」
 俺は、それを笑えなかった。
 単純な答えを期待していた。
 でも、ソレは余りに兄ちゃんらしくて。
 同時に俺とも似ていて。
 ああ、なんだか。
 つまらなくなってきたじゃないか。
 今の状況が。
 向こうが求めてくるこの状況が。
 はぐ、と骨ごと秋刀魚を食べる。
 そんな俺を兄ちゃんは、あの雨の日の温度で見ていた。
「引退試合が近いな」
「え? ああ。今月末」
「お前もレギュラーだっけ」
「うん」
 完食した兄ちゃんが食器を流しに運びながら呟く。
「それはよかった」
 どうして聞いてしまったんだろう。
 その一言を。
 重く残る一言を。
 単純な単語だからこそ、耳は記憶する。
 そして脳に意味を問う。
 なあ、兄ちゃん。
 そうやって俺をからかわないでくれ。
 ざわつかせないでくれ。
 意味ありげに見ないでくれ。
 ただの双子でいさせてくれ。
 わかってる。
 こんなこと悶々と考える方がおかしい。
 部屋のベッドに寝転がってネットを開く。
―双子 恋愛―
 そんなキーワードで検索をかけていた。
 好奇心。
 そう、好奇心だ。
 兄ちゃんの手の感触がいまだに残ってるから。
 その意味が知りたくて。
 それだけだ。
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