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kiss
第13章 arm
「うーわ。もったいねえ。頭にしろよ!」
 侑都が信じられないという顔で突っかかる。
 そういう本人は南を捨てる。
「いーの。もっと大きい役狙うんだおれは」
「テンパる前に振るだろ」
「だぁまぁれぇよ。さっさと奈津も捨てて~。侑都うっさい」
 萌未が煽るように気だるい声で言う。
 自分の時はいくらでも長引かせる癖に人には厳しい。
 そのうち「一手五秒の読みに入りますう」とか言い出すから面倒だ。
 囲碁じゃねえんだから。
 トン。
 奈津の指が、伸ばされた二本の指が牌を挟んで緑の布地に置かれる。
「わり。また勝つわ俺」
 にやりと。
 勝利を確信した笑みで。
「安いんだろー? 役満ぐらい見せろよ」
「見せるよ?」
 即座に返した挑発に侑都も口をつぐんだ。
 ああ。
 これは高い。
 二巡目にして良い手を見つけたものだ。
「んあああ……もうこれ捨てるう」
 萌未が中を投げるように置く。
「ポンだ。八つ当たりに颯飛ばしてやる」
「ひどくねー?」
 捨てようとしていた牌を手の中に戻して奈津を見る。
 じっと此方を見つめる瞳に視線がぶつかった。
 ぞくりと。
 なんだ。
 びりびりした。
 一瞬だけ、奈津が目を細めた所為だ。
 エロいんだよ、だからさあ。
 数秒で女を落とせる男。
 だらしない風貌の中に潜んだ端正な顔立ちと気品と、人の心を弄ぶ狡猾さ。
 こいつは一生結婚しないだろう。
 そんな面倒なこと耐え切れないはずだ。
「颯ー。早く捨ててよ」
「あ、おれの番か」
「ぼうっとしてたな」
 奈津がくすりと笑う。
 さっきとは違う。
 でも、どう違うかはよくわかんねえ。
 牌を握る。
 体温を含んで温かくなった牌を。
 指で撫でていると、その感触だけで何の牌か当てられそうな気分になってくる。
 そんなギャンブルがあったな。
「リーチっと」
「侑都、何気に揃えてるよね」
「あ? それでも唐突にロンかますお前の方が性質悪くて嫌だっつの」
「褒めてる? それ」
「にぁああああ。わからんっ」
 萌未はヤケクソな手ばかり打つ。
「あ、ロン」
「また奈津かよっ」
「馬鹿じゃねえの、萌未。ここでそれはアウトだろ。アウトすぎる」
「うっさいな、颯。安牌ばっか縋ってたら上がれないじゃん」
「負けたらだめだろうが」
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