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kiss
第13章 arm
鏡よ、鏡。
世界で一番醜いのはだあれ。
見えているくせに。
人間とは面倒だね。
鏡よ、鏡。
美しいものを映すことなどないのか。
「颯?」
割れたグラスを見下ろして、奈津が驚いたように名前を呼ぶ。
毒リンゴのジントニックが溢れて伝う。
ご主人様が、眉を歪めておれを睨んだ。
その胸に向けてポーチから取り出した銃を上げる。
認識する暇も与えない。
バスッ。
サイレンサーに邪魔された無様な銃声。
背中から棚にぶつかったせいで、グラスとビンが無数落ちていく。
「は、やて……殺せ」
ご主人様の最後の言葉がそれになった。
全てを眺めていた奈津が、おれの肩を掴む。
しかし、それを乱暴に振り払った。
涙が宙に散る。
「颯」
ああ、今。
あんたと麻雀がやりてえな。
何も気にせずさ。
「泣くなよ」
「……っ」
サイレンサーを外して、奈津に照準を定める。
「ごめん、ごめん……奈津」
「颯。謝るな」
指が動かない。
まだ乾いてもない唇で、あんたの肩の温もりも残ったままで。
なんで……
なんで、こんなこと。
あんな事故なんてなければ。
見捨てておけば。
下見なんてしなければ。
あんたが扉を開けても入らなければ。
さっさと出ていけば。
いや、いっそ。
こんな命捨ててしまえば。
まだ間に合う。
まだ。
ほら。
大丈夫。
タアンッ。
「あ、れ」
鼓膜に残響。
なのに、自分の銃は硝煙すら上げてない。
奈津が、紅い点が広がっていく胸を見下ろして固まっている。
「な、つ?」
膝がつく。
おかしいな。
空気が入ってこない。
後ろを見ずに、脇下から銃を向けると全弾放った。
「あっぐ」
ばたりと倒れた音。
誰かなんてどうでもいい。
ご主人様側の人間だろう。
目の前の奈津がぐらりと傾いた。
手を伸ばしたのに、間に合わなかった。
ごとり。
その音に焦って飛び付く。
奈津のシャツを掴んで思い切り揺さぶった。
「奈津っ! おい!」
「い、たいって……颯」
朦朧としてるくせに。
強がって。
「だから……泣くなよ」
「……どっちがだよ」
血で染まった手で奈津の手を握る。
「俺、泣いてる?」