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kiss
第14章 thigh
面白いとはいえないが。
俺は笑みを貼り付けて頷いた。
たとえば世界に二人きり。
考えたことすらない。
そもそもそう思える相手もいない。
「奥様がいらっしゃるのにそんなこと言っていいんですか?」
にやりと意地悪く尋ねてみる。
馬潟は片方の眉を上げて、余裕綽々といった口調で返した。
「君は結婚してないな?」
ぐ、と言葉に詰まる。
若造とでも言いたいのか。
家族を持てばわかることをわかっていない間抜けな質問だったのか。
「少し暑いな、ここは」
上着を脱いで半袖の白シャツになった馬潟の胸元に突起が薄く浮かんでいて、つい不自然に目をそらしてしまった。
たまにオフィスでもいるのだが本人たちに自覚はあるのだろうか。
そんな姿で外に出られるとこちらが心配になる。
馬潟は視線の意味を汲み取ったようで苦く顔をひきつらせた。
「普段なら気にするんだがね。仕事から離れたこんな状況くらい見て見ぬふりをしてくれ」
「いえ、俺はそんなつもりじゃ……」
くそ。
気まずい。
いつになったらここから出られるのだろうか。
平静を装ってはみても、携帯も使えず手持ちぶさたな時間は苦痛だった。
「なにも指示がないと不安になるな」
「仮面の男ですか?」
「ははは。それは殺し合いか最後には死が待つパターンだからよしておこう」
「では、そろそろルームサービスのメイドロボットでも来て欲しいところですね」
「全くだ」
喉の渇きを感じていた二人は同時に部屋を見渡し出口を求めた。
そして、視線は天井でぶつかる。
蛍光灯が煌々と輝く真っ白な一面。
ああ。
大学時代のアパート。
あそこもこんなだったな。
壁はポスターで埋まっていたが。
それから降りた視線はベッドに。
これが謎だ。
監禁する相手にベッドなど与えるか?
ならばここは誰かの生活空間。
一時的な密室であって、ここに連れてきた者が住んでいる場所ではないか?
溜め息を吐く。
そんなくだらないこと考えている場合ではない。
立ち上がって壁に近づく。
「どうかしたかい?」
「ほら。コンコン叩けばどっか音が違うかと」
「君も映画の見すぎだ」
「ですかね」
出鼻を挫かれたが、根気よくノックを一周する。
「……なにもなかったね」
無駄な疲れを感じた俺は馬潟の皮肉を余所目に、うつ伏せでベッドに倒れた。