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kiss
第14章 thigh

 密室の怖さは二つあると思う。
 一つは出られないと言う事実。
 もう一つは、音を出さなければ無音ということ。
 唾を飲み下す音ですら、鼓膜を破りそうだ。
「私は君を見ていた」
 優しく、お伽噺でもするように。
「いつも見ていた。あの電車でね。軽度の潔癖症なんだろう? 吊革には絶対に触れない。人の肩が当たるだけで嫌そうな顔するのが可愛くてね。今朝もそうだった。君は肥満体の同性が特に苦手らしいな。酷い顔をしていた。それはもう、よほど嫌だったんだろうなと。そこが私の知りたかった好奇心をくすぐった」
 指一本動かせない。
 人が豹変すると、空気を支配する。
 馬潟は愛しそうに俺の髪を撫で、それから容赦なく掴んで引き寄せた。
「いっぎ……な、にを」
 頭皮がぶちぶちと切れたような音が脳を揺らす。
 馬潟は片手で俺を押さえつけたまま、ジッパーを下ろして性器を取り出した。
 いきなり目の前に現れた黒い棒はあまりにもグロテスクで、息を止める暇もなく臭いが鼻を貫く。
「ん、ぶっ」
 吐き気が込み上げ歯を噛み締めた。
 自フェラでもしなければ、健全な男はここまで近くで男性器を見ることはないだろう。
「ああ。良い顔だ。吐くほど突いて上げたい。その喉を。ぐちゃぐちゃにして、涙を舐めとってやろう。ずっとそれを想像していた」
 こいつ……頭おかしい。
 ふ、と漂った煙草の薫りがさっきまでの平穏をおぞましく蘇らせる。
 初めからそのつもりで。
 俺と同じ会話をしていながら。
 それがなにより怖かった。
 だって、安心しきっていたのだから。
 俺は。
 バカみたいに。
 先端が艶めき、ピクピクと勃起していくそれは、自分にも付いているとは思えないほど気持ち悪く見えた。
 絶望が下りてくる。
 今からこれを、くわえさせられる。
「抵抗してくれた方が面白いんだが」
 少しつまらなそうに馬潟は呟き、俺の口に指を捩じ込んだ。
 ゴツゴツとした異物に嗚咽する。
 ジュブ、チュク。
 咥内を掻き回される。
 舌を脱力しないと、爪が当たりそうで怖かった。
 涙が溢れて落ちる。
「そうか。この体勢では顔がよく見えないな」
 独り言の後に、俺は床に引きずり下ろされ、ベッドに腰かけた馬潟にすがりつく形で性器を口に入れられた。
 理解する前に突かれていた。
「っは、ん、んく」
 舌が痺れるほど擦り付けられる。
 
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