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kiss
第14章 thigh
ああ。
そうだ。
たとえば世界に二人きり。
それさえ叶えば、君は落ちてくれる。
諦めてくれる。
私の愛を本物だと受け止めてくれる。
他には誰もいない屋根裏で。
終末を演じて恋人ごっこ。
そしたら君は落ちてくれる。
私の手の中に。
それを何人に強いたことか。
馬潟は地下室に降りて、薄暗い闇のなか横たわる青年の頬に口付けた。
既に腐敗が始まり、悪臭漂う密室。
鍵をかけて、最後の愛撫。
「愛しているよ。芦田くん」
光のない瞳を手で隠して抱き締める。
そうだ。
ここなら世界に二人きり。
擬似終末を演じられた。
「……答えてくれたじゃないか」
乾いた唇を食む。
これで何人目?
何回目の終末?
庭に埋めた屍はそろそろ二桁。
死してなお、変わらず美しい芦田の肢体を舐めあげる。
温度が消えていく。
彼はまだ高校生だった。
登校途中の公園で待ち伏せをし、車に引きずり込んだ。
「何故、逝ってしまったんだ……私が浮気をしたからかい?」
咬みきって喉奥まで塞いだ真っ赤な舌。
余程苦しかったんだろう。
目は開いて虚空を凝視したままだった。
芦田の隣に寝転がる。
ああ、静かだ。
地下には外の音は入ってこない。
時計すら置いてないこの部屋は完全な静寂を演出してくれる。
外はとっくに滅んで二人きり。
そう感じさせてくれる。
ポタリとシーツに滴が落ちた。
処理しきれていない芦田の体液かと思ったが、自分の頬が濡れていた。
くすくす。
笑いが意識の外で洩れる。
「馬鹿だなあ。私は」
くすくす。
芦田の首に手を回し、子が親にするそれのように抱きつく。
「二時間だけ。君と過ごしたい」
ポタポタと水玉が増えていく。
冷たい芦田の体に体温が奪われていくのを、繋がっている時に重ねて至福を感じた。
「……田神くん?」
天井裏に戻った馬潟の驚愕した顔を青年はにこやかに迎える。
手錠を固定された状態でどうやったのか、腕を捻りつつも起き上がり、馬潟が来るのを待ち望んでいたように座って身を屈めていた。
それから土下座する。
「おかえりなさい。馬潟さん」
田神の意を図りかねた馬潟は、拘束している自分の方が動けなかった。
「……約束、守りましたよ」
身を起こし、脚を開いて局部を見せる。
ディルドはそのまま刺さっていた。