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kiss
第16章 blood 未完
コン、コン……と断続的な金属よりも多少柔らかい衝突音がクラシックのバックグラウンドに混ざり聞こえて視線を流せば、入口に吊るされたモビールから垂れた紐の先、小さな木造りの球が隙間風に揺れていた。
「ウィンナーコーヒーってなんでウィンナーなんだ」
白いホイップを小細工とばかりにグルリと巻いたセンスはどうにも某チェーン珈琲店の看板メニューのような嘘くささが邪魔をしている。
冬矢は程よく濡れた柔らかい絞りで骨ばった手を緩慢に拭い、一息吐いてからいらぬ入りから始めた。
「本気で興味があるとは思えないんだけど。ウィンナーは聞いてのとおりウィーン風というドイツ語から捩ったカタカナ英語のような呼び名だけどね、そんな名前のコーヒーなんか世界には存在しない。モデルにしたのはアインシュペナーだったかな。生クリームが暴力的に入ってる。君には致死量だ。カップじゃなくてグラスらしくて、それこそフラペチーノばりに君の好みじゃないよ」
「僕をいちいち絡めないでくれないか」
冬矢はニヤリと片目を細めて柔らかい唇をつぐむと、わざとらしく煙草を取り出し咥えて火をつけた。
細く吐き出される煙を目で追い、遅れて届いてきた苦味の強い香りに眉を潜める。
一応は気を遣い右側に逃がしてくれてはいるが、それでも非喫煙者には慣れが来ない有害物質だ。
「お待たせ致しました」
「ベストタイミングだよ」
冬矢は常連客よろしく舐めた口調でそう答え受け取った。
添えた左手薬指の滑稽さと不思議に相まった所作の美しさがピクリと目の下を強張らせた。
僕は冬矢が大嫌いだ。