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kiss
第16章 blood 未完

「永夏は映画が嫌いな様子」
 言葉遊びのように韻を踏む。
 ほらな、気に障る。
 僕は顎を親指で擦りながら眉をしかめる。
「君の趣味に合わないだけだろう。名画と呼ばれる傑作で涙したことくらいあるよ」
 カチャリ、と優雅にカップを置いて冬矢は、もっと聞くから話してご覧と言う顔をする。
 脚を組んでソファに身を預けて。
「たとえば……豪華客船の沈没劇でのそれぞれの別れのシーンくらい心の琴線に触れたよ。あとは、記憶を亡くした恋人に過去を語って聞かせる儚いストーリーとかね」
「それほど純粋な気持ちが、今日の作品には動かなかったというのかい」
「映画や小説は新しいほどに不利なんだよ。どっかで見た展開が日々数を増していくんだから。ああ、こうなるんだろう、が予想通りだったとして喜ぶ男じゃないだけさ」
「では次は、古い作品のリバイバル上映をチョイスしてあげようかな」
「そう単純じゃないよ。今見ると技術やカメラが粗末なのが雑音になって集中出来なかったりする」
 冬矢はお手上げとばかりに両手を上げた。
「じゃあどうしたらいいんだ」
「さっきも言ったけど、僕に同じ温度で楽しむのを期待しないことだ」
 淡いオレンジの光が揺れる空間で、冬矢の両目が真っ直ぐ向いているのが際立った。
 撫でつけるようにセットされた髪の毛の先が光を反射する。
「君との縁を長引かせたいんだよ」
 口に含んだエスプレッソの苦さが増した気がする。

 冬矢の運転は一秒でも止まりたくないような気持ちが伝わってくる。
 赤信号に捕まりかけると横道にそれ、なるべくバイパスを走る。
 何をそんなに急ぐのだろう。
 帰るだけだと言うのに。
 映画を見て、珈琲を飲み、家でのんびり過ごす。
 これが僕と冬矢の一日だ。
 メロディを覚えるほど聴いたクラシックを流した車内で、眠気を楽しむようにシートを倒す。
 信号で悔しそうにハンドブレーキを引きつつ、冬矢は小さく呟いた。
「僕以外の車に乗る時は、そんなに無防備になるもんじゃないよ……」
 言葉の意味を問い返す前に、脱力した太ももに熱い手が置かれる。
 こちらを一瞥した視線の鋭いこと。
 冬矢の一重でつり上がった目は、小さな瞳の迫力を隠すように長いまつ毛で覆われてる。
 対する僕は小動物のような二重で、周りの視線から逃げるようにキノコのような前髪を重ねてる。
「青だよ」
「そうか」
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