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kiss
第16章 blood 未完
マンションの地下駐車場に滑り入った車は、柱の陰のスペースに埋もれるように停まった。
サイドミラーが間抜けな振動と共に閉じて、エンジンが止まる音と同時に室内の明かりがふわりと点いた。
熱の冷めない視線がこちらを向いているのを認識しつつ、ベルトを外す。
「永夏はさ、あと何回……」
言葉を見失ったような沈黙に、つい顔を上げてしまう。
ああ、上げてしまった。
またこの寂しげな瞳に捕らわれるんだ。
発作のように不規則に息を吸うと、肺が不満だとばかりに痙攣して冷や汗を引きずり出す。きっとこれは緊張という代物なのだろう。
ゆっくりと頬に近づいた掌が、迷うように宙に留まってから、意を決したように優しく触れてきた。
二人の体温は三十度以上の差がある。
その差を埋めるように、冬矢の手が熱を溶かす。
敢えて僕はその手に甘えるように頬を擦り付けてみた。
丸まった前髪の毛先が指先に絡まり、冷たい唇が潰れるように当たる。
冬矢の意識が沸々と湧き上がるのなんて目を見れば手に取るようにわかる。
自然と持ち上がってしまう口の端から、赤い舌を覗かせたらもう限界だ。
ギギ、と車の片側に重心が傾く音がする。
僕に覆いかぶさるように助手席に身を傾けた冬矢の唇が、待ち望んだ触れ合いに喜んで舌を突き出す。
「んん……っ」
唾液の溶け合う水音が車内に響く。
濡れた柔らかいそれが上からなぞるように押し付けられて、舌の裏の凹凸を舐めとるように緩慢に滑っていく。
どくどくと興奮した血流が伝わってきて、僕はつい勢いに任せて唇を離すと、冬矢の首筋をしゃぶるように食んだ。
低い悲鳴が鼓膜を揺らす気持ちよさに溺れながら、ぐぐぐ、と歯肉から飛び出た犬歯を頸動脈に這わせる。
このまま興奮に身を委ねて歯を合わせてしまえば、甘美な血の味に溺れながら喉の渇きを潤せることはよく知っている。
何百と経験してきた快感に縋ろうとする自我を押し込めるように、震えながら首を引く。
不満そうな唾液がぽたりと冬矢の鎖骨に落ちた。
ああ、またか。
また、僕はやれなかった。
荒い呼吸のセッションが閉じる時、喪失感に包まれた。
消えてしまいたい僕を、大きな腕が包み込んだ。
「僕は失敗作だ……」
「そんなことないよ」
駐車場の白い蛍光灯がやけに眩しかった。